再び樹海を行く

 4月に続き、今月5月も、伊藤浩美さんを案内人に、樹海に入りました。あいにくの雨模様でしたが、一同雨支度をして、軽水林道から道なき道をすすみ、今まで出会ったこともない突出した溶岩ドーム、ダイナミックなドーナツ状の火口を訪れました。遠雷を耳にして、急きょ安全な低地へとコース変更したのが功を奏し、名もなきふたつの火口を巡ったのですが、それは一瞬言葉を失うほどの迫力でした。霧の中に、浮かび上がる溶岩ドーム。その辺りは、昭和30年代後半、山麓の村の人たちが炭焼きなどをしていた、いわば暮らしに直結していた場所だそうです。目を凝らせば、当時の三輪トラックの轍さえ確認できます。
 伊藤さんの頭の中に、樹海の地図がいったいどうやって収まっているのか、ほんとうに驚くのですが、森の奥深くどこにいても、富士山と国道の位置がはっきりしていて、いつも涼しいお顔をされています。
 足元の銀竜草、つくばね草、フデリンドウ、見上げるカエデやハリギリをゆっくり愛で、アカゲラの巣穴づくりを横目で通過し、山ブドウのツルをくぐり、美しい新緑にだれもが寡黙になるひととき、落ち葉を踏む足音だけが森に響きます。
 そのうち雨も上がり、1200年前の貞観の大噴火で火を噴いた低地で昼食。人知れず、名もなく、1200年の間ずっとここにある火口のたたずまいに、思わず息をのみました。そして今回も、土のない溶岩にしがみつくように根をからませる樹木の力強さに、励まされました。
 場所というのは、おそらくどこでも長い歴史と広い地理が、何かの縁で交差する地点なのでしょうが、世俗にまみれず、重厚に鎮座するその交差点で、霧深い空気を胸いっぱいに吸い込んで下界にもどりました。

 繁殖期を迎えたムササビは、きょうも日の入りを待たず、早々に出巣していきました。いい相手に巡り合えるか? たとえそれが実らず帰巣しても、あるいはどこかにうまく新巣を見つけて外泊したとしても、そのどちらをも淡々と見られる自分に、早くなりたいものです。

 6月のごはん会は、6月4日(日)午後6時からです。前日までにお申し込みください。

                           りすママ
 
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連休が終わりました

 連休中は天候も良く、下界では例年通り道路渋滞などがあったそうですが、おかげさまで拙店では、みなさんにゆっくりしていただけました。その間、当時少女だった方、あるいは青年だった方たちが、10数年ぶりに来店してくださり、それも遠方からで、大いに励まされました。
 そして連休が終わり、森はさらに鮮やかな緑が増し、シジュウカラの営巣、アオゲラ、ウグイスのさえずり、リスの追いかけっこなど、繁殖の季節特有のソワソワ感というか、加速度のついたエネルギーが感じられます。
 雨の朝。ムササビがウロから顔を出し、ずっと外をながめています。イタチと闘って負傷した傷跡は、だいぶ癒えましたが、表情はかなりくたびれているように見えます。
 森の生き物たちに、笑顔や泣き顔はありませんが、身体全体で感じる恐怖とか、感動はかならずやあるはずだと思っています。ただ、それが人間のように感情とか気持ちに移行しないので、直感が線や面にひろがっていかないのかもしれません。
想念のない暮らし、ある意味、うらやましいです。過去や将来の呪縛から解放された、今という点を生きる彼らの生を、一度でも体感してみたいと思います。

                   りすママ
 

満開の桜の中で

 富士桜が満開になり、GWのはじめに思わぬお花見ができました。南の国から渡ってきたキビタキも、どうやら桜の蜜に間に合ったようです。
 イタチに襲われたムササビですが、実は三日間ウロを留守にして、母親だけがもどってきました。顔中傷だらけで、なんとも痛ましく、思わず胸を抱え込んでしまいました。やはり、残念ながら、子どもたち二匹の姿はありません。子どもを守り切れなかった母親は、静かに、いつもよりずっと緩慢に毛づくろいをして、日の入り30分後には出巣して、滑空していきます。滑空してエサを探さなくては、生きていけないからです。ほんとうに、けなげな滑空に見えてしまいます。
 顔の傷は、日に日に癒えていくようです。そして、6月には次の繁殖期を迎えるので、体力をつけないといけないのでしょう。年に二回の繁殖期をもつメスのムササビは、妊娠期間も授乳期間が長く、一年のほとんどを子どものために生きています。
 イタチの母親だって生きていかなくてはなりませんから、彼らだってけなげな子育てをしているはずです。決して悪者ではありません。
 一日中、この小さな森を前に何度もため息をつき、ごはんを3度も食べ、毛づくろいの替わりにお風呂に入り、暗くなれば眠りにつく人間のわたしです。

                               りすママ

富士桜前線ともう一件

 例年よりおくれて、4月25日現在、我が家の庭にある富士桜は2分咲きといったところでしょうか。しかし、満開まですでに時間の問題だと思います。GWには、まちがいなくささやかなお花見ができるはずです。ささやかなというのは、富士桜の花が小さく、さらに下を向いて咲くので、今一つ華やかさに欠けるからです。
 今朝は、その枝にコゲラのつがいが螺旋状にのぼったり、おりたりしていました。
 世の中がこんなにポカポカしてきたというのに、わたしの心は、しーーーん。実はムササビのウロがイタチに狙われ、うまく引っ越せたのか? それとも餌食になってしまったのか? ・・・・・・あんなに一生懸命子育てをしていた母子の姿が、消えてしまいました。
 2月11日の帰巣初日に、たまたまいっしょにウロを見ていたさおりさんと、なぜかこの日もいっしょにイタチの木登りを目撃してしまったのです。その日は朝から母ムササビは留守でしたが、子どもたちだけで留守番している気配はありました。そこを狙ったイタチは、ウロをのぞきこんだだけで、わたしたちの叫び声に、その時は退散したのですが、日入り後になってまた登ったのでしょう。
 翌朝、ウロは空っぽでした。しーーーん。
 そして今朝も空っぽでした。しーーーん。
 だれも、気休めや慰めを言わないし、解説もしないのが、わたしには救いです。

 次回のごはん会は、5月7日(日)午後6時からです。オカズ一品と義援金500円で、前日までにお申し込みください。

               りすママ

不思議の森のアリスたち

 映像カメラマンの伊藤浩美氏を団長に、13名で青木ヶ原樹海を歩いてきました。17年前に山麓探偵団をはじめて以来、何度も歩いてきた樹海ですが、一度として同じコースはありません。今回も、神座風穴、蒲鉾風穴、横型溶岩樹型など、人知れず奥に鎮座する洞穴周辺、時には道なき道のカラ松やホウ葉を踏みつつ歩き、たいへん気持ちのよい一日でした。
 最近の多雨で、溶岩上には多種多様のコケがみずみずしく広がり、そのミクロの世界には、思わずだれもが引きこまれてしまいます。ルーペで覗いてみると、コケの集合は実はなだらかで、美しい森だということがわかります。どこまでもつづくその森は、ルーペを外すと、今度は溶岩を覆うビロードの絨毯と化します。
 背を伸ばし、馬酔木(あせび)、鬼しばり、フデリンドウ、ハリギリ、五葉松(ごようまつ)などの植物を愛で、三十三歳(ミソサザイ)やコゲラの鳴き声に耳をすませます。
 腰が痛い、膝が痛いなどと言い合っていた13人には、それぞれとっておきの話があって、例えばヒメネズミがね、何度もベランダを横切ってエサを運んでいたとか、リスがちゃっかり鳥の古巣を食堂にしてたとか、ヤマネが布団の中で冬眠していたとか、テンはなぜあんな石の上の真中にフンをするのだろうね? とか、あはは、いや、それはさあ、あら、いやだ、あはは、などとだんだん皆は年齢を忘れ、通路式の洞穴をくぐって、ふと消えたりする人、思わぬ場所からひょこり現れる人もいて、まるで不思議の森のアリスたちのように、それぞれの時間を越えていきます。
 平安時代後期に、数年間にわたって寄生火山の噴火がつづき、その間ずっと溶岩が流れ、また数年間かかって溶岩が冷え、陥没を繰り返した後、100年間に堆積する土はわずか1センチという厳しい環境の中で育った奇跡の森、それが青木ヶ原樹海です。根をはるにも土のない溶岩に、必死にからみついて生き延びてきた樹木と灌木の、まさに命みなぎる森、樹海に行くたびそう思います。
 そして夕方に帰宅してから、ひとりでムササビの出巣と滑空を見届け、この世の時計の針に、いったい何を約束したらいいのか? と考えたりもしています。

                    りすママ
 
 
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