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北麓の小さな春

 村の人の言うには、フキノトウは、鹿の好物らしく、今年は人間の食卓に載る前に、大部分が鹿の胃袋におさまったということです。たしかに、いつもはフキ味噌ができるほど採れるこの周辺でも、めったに見当たりませんでした。
 毎年、桜の満開と渡り鳥(キビタキ、オオルリなど)の飛来のタイミングが合わず、やきもきするのですが、今年は特に桜前線が早すぎて、すでに富士桜も散り始めました。まったく、かすりもしないすれちがいとなりました。
渡り鳥たちは、今ごろ、どの辺りの海上でしょうか?
 飛来して、待望の花の蜜もなく、いったい山麓で営巣するかどうかもわかりません。でも、渡り鳥独特の山吹色や濃いブルーを目にするのは、やはり楽しみです。
         りすママ
 
 
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春の嵐

 きょう、3月21日は、強風と大雨で、大荒れの一日、まさに春の嵐です。
森の生き物たちは、樹木の根元や枝の陰で、きっと息をひそめているのでしょうが、思考や感情をもたずに、先の見えない長時間を過ごすというのは、いかばかりなのか? ついつい木々の間に目を凝らしてしまいます。動く影も姿も、見えません。不本意だとも思わないのでしょうから、なんと崇高な内面をもちえているのか。
 人間だけが、小さな屋根の下で、家事や仕事、読書や大相撲観戦に忙しく、その間に地震があれば、慌てふためき、ちょっとでも朗報を耳にすると、わくわくして、わずか数十年の人生の大部分を、想念や妄想にとらわれて、それが生きることだと勘違いしているようです。
 春の嵐の、窓にたたきつける音は、そうした勘違いを、ほんの少し流し去ってくれるような、ありがたい激しさでもあります。

                       りすママ

フクロウとの対面!

 フクロウが夜中に鳴いたり、夕方にシルエットになって飛ぶのは、何度か見かけましたが、今朝は初めて対面しました。近くの木の枝に飛んできて、しばらくこちらをじっと見て、そのあと、また森の奥の方に飛んでいきました。かなりの大きさ、保護色の色合い、するどい眼光で,図鑑で見ましたら、コノハズクというフクロウでした。ここに住んで44年目の初対面、とても感動しました。野生のフクロウと共に生きている! 猛禽類なので、ネズミやムササビ、リスも餌になるということです。自然界の連鎖なので、ムササビおばさんのわたしは、どうこうコメントできませんが、その連鎖の周りで共に暮しているということに、あらためて深い感動があります。
         りすママ

初めてのバースデイケーキ

 母の95歳の誕生日を、近所の方たちが数人で、お祝いをしてくれました。サプライズでしたが、当人はちゃんと年齢の自覚があり、思いがけないひとときを、喜こび合いました。春らしい色の花束やアレンジメントを胸に、バースデイケーキを前に、来年の年賀状用にと、写真を撮りました。
 そして、ケーキにたてた9と5の数字ろうそくに火をつけ、ピアノ伴奏付きで歌を歌い、さあ、火を消してと言ったのですが、母はどうしていいのかわかりません。母は子ども時代を戦中戦後の混乱の中で過ごしたせいもあって、我が家には誕生日にケーキを囲むという習慣がありませんでした。そんなわけで、母には95歳にして初めてのバースデイケーキだったのです。
 さあ、ろうそくの火を吹いて! と、みんなで急かしましたら、母は片手であおり、「仏壇じゃないんだから」と無神経な娘の一言で、みんなで大笑いしました。真冬の午後、小春日和の誕生会でした。

               りすママ

その人の言葉

 年末に上京した折、実家のご近所の婦人とばったり会って、互いの無事と健康を喜び合いました。彼女はたぶん80歳くらい、独り暮らしですが、庭先に様々な植物を育て、折々に切り花をご近所に分けてくださる方です。70代半ばまで、女子大の寮母をされていたと聞いていました。
 短い立ち話の別れ際に、「お宅の○○〇は、大正13年のお生まれだった?」と、きかれたのですが、その○○〇が、うまく聞きとれず、「うちの?」と聞き返しますと、「ミセスは、15年でしたか?」と言われたので、ああ、うちの父のことを、ミスターと呼ばれたのだとわかって、可笑しくなりました。「うちの父は、大正3年生まれでした」と答えますと、「まあ、そうでしたか。うちの主人は大正13年でした」と言われて、まるで昭和初期の小説に登場する会話のように感じました。
 思いがけない〈ミスター〉〈ミセス〉という呼び名は、おそらく彼女の暮らしに根づいた独特の言葉なのでしょうが、その意外性がいやみなく、じつに自然だったのが、心に残りました。
 ミスターなどと呼ばれたことのない父は今ごろ、笑っているでしょうが、それにしても、世間の言い回しではなく、その人だけの意外な言葉づかいに、ついつい笑顔になる再会でした。

           りすママ
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