秘境を訪ねて

 夏の社員ご苦労さん会で、山梨県の早川町奈良田という山深い地を訪ねました。以前日帰りで、雨畑(あめはた)と湯島の湯(ゆしまのゆ)までは行ったのですが、夕暮れ迫る中、その先はあきらめて山道を下りました。
 今回は、89歳の母を連れての二泊の旅、山に囲まれて、ゆっくり過ごすことができました。昭和28年から東京や横浜への電力供給のための水力発電ダム建設がはじまり、昭和34年には奈良田集落はダムの底に沈んで、暮らしは現在地に移転しました。ダム建設はその後もつづき、現在では渓流沿いにいくつも造られ、そのために林道が整備されて、ゴールドラッシュの相乗もあり、一時は下流地域に娯楽施設や歓楽街があったと言われています。さまざまな流転の果てに、今は過疎化がすすみ、またダム建設の後遺症で土砂災害に見舞われ、山肌が痛々しく崩落していました。
 奈良田に伝わっていた焼畑農業も昭和30年代で途絶え、都会からオフロード車や温泉客が押し寄せたりして、それまでの文化維持が危うくなり、自然界ではカモシカに替わって日本鹿の数が激増、日本ミツバチが激減して、生態系の大きな変化が顕著にあらわれているとうかがいました。〈ユネスコのエコパーク認定〉という看板が、なんだか場違いに立っていて、観光客のひとりである自分も、複雑な思いで下山しました。真っ暗な山間に宿泊して、都会の暮らしは、あれはいったい何なんだ? と、あらためて身震いが出ました。「気がついてからでは、もうおそい」宿のご主人が、真剣におっしゃった言葉が、重く心に沈んだままです。
 新潮クレストシリーズの、「メモリーウォール」の中の短編「113号村」、アンソニー・ドーアという若い作家の珠玉の作品を思い出し、おそらく世界中にあるこうした人間のエゴにまつわる闘いが身に沁みます。場面は中国ですが、ダムに沈む村と種屋の母子を描いた、実にすぐれた作品で、岩本正恵さんの訳も絶品です。この短編集には、ほかにも「ネムナス川」「非武装地帯」など、素晴らしい作品があり、今年のわたしの一押しでもあります。
 でも、作品で感動したり、旅先で考えさせられたりするだけでは、単なるずるい現代人にすぎませんね。と、また考えます。どうすればいいのでしょう?
 
今月のごはん会は、一五夜の27日(日)午後6時からです。前日までにお申し込みください。

 

                           りすママ
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