静寂という音

 わたしは2歳から17歳までを、新宿区内の団地で暮らしたのですが、となりは消防署、目の前は伝染病院という自動車道路に面した場所で、野山や小川や田んぼには全く縁のない育ち方をしました。田舎もありませんでしたが、ときおり杉並や吉祥寺の親戚の家に行くと、なんとも静かで、というか不気味で、夜はひとりでトイレにも行かれず、静かすぎて眠れませんでした。イトコ連中から、「あんたは、新宿の子どもだから」などと、からかわれたものです。昭和30年代の消防署といっても、夜中に消防自動車や救急車の出動が何回もあり、常にそうした街の音の中で暮らすのが当たり前になっていました。
 18歳の時、家族と離れてイスラエルの集団農場キブツで暮らし始め、その2年間をきっかけに、今度はぎゃくに街の音の中では暮らせなくなって、現在にいたります。あのころのキブツでは、毎晩カエルの合唱が聞こえていました。
 今は、静まり返った森の中で、葉や枝のすれあう音や、さまざまな小動物の啼き声、雨音、風音をききながら眠りにつき、実は静寂には、樹木の呼吸ともいえる森の音があることに気づきました。そんな中で、深く眠れるのは、なんと幸せなことでしょう。ときおり、夜中の一時ころにフクロウの啼き声が聞こえるのですが、まるで仲間の呼び声のように、わたしには聞こえます。初夏に啼くホトトギスには、いささか安眠を妨害されますが、それも真夏になれば、気にもならなくなります。
 音があるのに音がない、音がないのに音がある、耳もまた静寂をききわけて、ぜいたくに作動するようになりました。


                     りすママ


 
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