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その人の言葉

 年末に上京した折、実家のご近所の婦人とばったり会って、互いの無事と健康を喜び合いました。彼女はたぶん80歳くらい、独り暮らしですが、庭先に様々な植物を育て、折々に切り花をご近所に分けてくださる方です。70代半ばまで、女子大の寮母をされていたと聞いていました。
 短い立ち話の別れ際に、「お宅の○○〇は、大正13年のお生まれだった?」と、きかれたのですが、その○○〇が、うまく聞きとれず、「うちの?」と聞き返しますと、「ミセスは、15年でしたか?」と言われたので、ああ、うちの父のことを、ミスターと呼ばれたのだとわかって、可笑しくなりました。「うちの父は、大正3年生まれでした」と答えますと、「まあ、そうでしたか。うちの主人は大正13年でした」と言われて、まるで昭和初期の小説に登場する会話のように感じました。
 思いがけない〈ミスター〉〈ミセス〉という呼び名は、おそらく彼女の暮らしに根づいた独特の言葉なのでしょうが、その意外性がいやみなく、じつに自然だったのが、心に残りました。
 ミスターなどと呼ばれたことのない父は今ごろ、笑っているでしょうが、それにしても、世間の言い回しではなく、その人だけの意外な言葉づかいに、ついつい笑顔になる再会でした。

           りすママ
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